アホな子はとうとう風邪をこじらせてしまったようです。


別に青兄ちゃんをヘタレ化させたいわけじゃない、ちょっと気になっただけっていう、ただそれだけの話。
気力がもてば逆バージョンも書きたいっすね。





青「……」
創「…参ったな。」
白創は青い侵略者に頭を悩まされていた。
それはいつもと変わらぬ事実であったけれども、今回はそもそも事情が違う。
創「原因がわからん…」
深く、溜め息をつく。

―まっすぐ歩けない。
沈痛な面持ちで青寒天はそうぼやいた。
青「頭は重いし身体はだるいし息苦しいし翅も出せないし」
創「抑揚がない声で一息に言われてもな…」
苦笑しながら振り向いた白創がぼんやりと彼の発した言葉と、弱っていささか小さく見える彼を一瞥し、ゆっくりと状況を頭の中で反芻する。
そして今彼の身に起きているであろう問題を、しかしそれを理解することができないというように、額に手をあてうなだれる。
創「…風邪か?」
―まさか、な。
青「…なんだそれ。」
訝しげに聞き返す彼を見て、無理もないと白創は思う。
―第一、精神体である我々が、風邪にかかるなどという事がおかしいのだ。
構成するデータは膨大なれど、外部からの改竄なしに異常が起こるとは考えられぬはずだが…
ぐるぐると思考を巡らす白創。
その表情を見、若干不安そうに青寒天が覗きこむ。
青「なんだ、そんな深刻な問題なのか、その…風邪とやらは。」
創「いや…さして問題はない。」
青「……」
創「…たぶん、な。」
青「嘘だな。」
創「ふ、本音は隠せないか。」
青「…っ、お前創造神だろ白創!なんとかできないのかっ?!」
創「ぐわっ、そんなに揺するな!!そもそもお前を創ったのは私ではな…」
はっとして息を呑む。
青「………。」
 「そうか。」
襟元を掴んでいた手が緩められる。
青「 ―… 俺は、 氏ぬのか。 」
創「…え?」
あまりにも小さい呟きだったので危うく聞き逃すところだった。
創「…青。」
そこにはすっかり消沈しきって青ざめた(とはいっても、彼は元々死人のような顔色なのだが)侵略者の姿があった。
―これが、かつてこの世界を脅かした存在なのか…?
その事実さえ疑いたくなるほど、弱弱しく震える彼の姿は。
普段の高慢で、傍若無人な振る舞いからは到底考えられないもので。 その落差に不謹慎ながらも口元が緩んでしまう。
ゆっくりと白創が青寒天の肩を抱いた。
創「大丈夫だ。…原因さえわかれば治してやれる。」
 「そうでなくても、こういうものは大人しくしていれば治ると相場は決まっているのだ。」
子供をあやす様にポンポンと軽く背を叩いてやる。
創「そこのベッドで暫く横になっているといい。」
青「……。」
創「少し野暮用を片付けてくる。」
そういうと白創は姿を消した。
青寒天は何か言いたそうにしていたが、しかし彼が消えた場所を見続けることしかできなかった。

創「自己治癒してくれればいいのだけれど。」
野暮用を済ませた白創が帰路を急ぐ。
―理にデータ提供を求めるか?
創「…うーん。父様はきまぐれだからなぁ…。」
ぼんやり考えながら再び制御室に戻ってきた白創は、想像だにしない光景に目を覆いたくなった。

青「ドウシテ… ドウシテ…」
創「…青?」
恐る恐る名を呼ぶ。
青「ア、… 白、創…。」
 「良カッタ、…白創、オ、レノ…白、創。」
所有物呼ばわりされたのは気に入らないが、下手に刺激するのは危険だと判断しぐっと言葉を飲み込む。
青「良カッタ、…独リジャ、ナイ…」
―しまった、幼児化して白破でも置いておくべきだった。(きっと青の事が嫌いな白破でも、熱を出して苦しんでいる子供の姿を見れば放ておけないだろうからな… 保母さん体質だし。)
青寒天は、幼少期のトラウマからか、不安定な時一人にすると高確率で暴走してしまう。 わかっていたはずなのにと、後悔するが時すでに遅し。
ただ、彼自身も原因不明のエラー…ここでは病と言った方が正しいか…の所為で存分に力を出せなかったのは不幸中の幸いか。
制御室は、おそらく彼が鎖を縦横無尽に放ったのだろう、惨劇と化していた。
心臓部である機械等はなんとか無事なようだ。 例の波動でも放たれていたらと思うとぞっとする。
青「白創… 白創…」
フラフラとおぼつかない足取りで彷徨う青寒天。
創「…?」
その様子を見て、白創が彼の異変に気づく。
創「青… 君、目が…見えてないのかい?」
青「ウゥ…、」
声をかけると振り向く。 が、バランスを崩して倒れこんでしまった。
青「白創… ドコ…、ドコ…?」
創「ここだよ。」
そっと彼の上体を起こし、耳元で囁く。
―そうか、自分の熱量が上がったせいで熱感知そのものができなくなってしまったのか…
青寒天にはそもそも目という器官がない。
そこで、代わりに本来なら目が収まっているであろうくぼみの、外壁に近い部分に熱を感じ取る器官があり、物体が発する熱を感じる事ができるというのだ。
さしずめ彼にはサーモグラフィーで映したように物体が見えているに違いない。
だが、原因不明の発熱によって器官周囲も相当熱くなってしまったようだ。
青「イ、タイ… イタイ…目、ガ…」
 「景色…全部…光、ッテ…」
熱感知で知覚する彼には目を閉じて映像を遮断することができない。
故に、まるでストロボでも浴びたように強烈な光として、熱が常に見えているのだろう。 病体には二重苦だ。
創「触覚は生きているな? よし、いい子だ。落ち着いて深呼吸して…」
青「―…」
そっと胸をなでてやれば、徐々に呼吸が安定してくる。
しかし、盛んに瞬きをしていてまだ苦しそうなので、手に冷気を集めて、彼の目を覆ってやった。
青「ヒぁっ…」
びくりと身体が震える。
創「ゆっくり… 吸って…吐いて…。」
青「―………。」
 「暗ク、ナッタ… ア、リガト…」
創「うん、そのまま… どんどん暗くなってく…」
声を出来る限り低くし、唄うように甘く優しく語りかける。
青「…」
創「そうすると…四肢の力が抜けて…だらーんとした状態になる…」
 「身体が…どんどん…鉛のように重くなってくる…」
青「―…」
だいぶ呼吸が安定してきた事を確認すると、彼をそっと抱きあげベッドに下ろした。
創「―ふぅ。」
ひとまず大丈夫だろう。
創「しかし… 面倒な事になったな…」

着地点を見失った俺。 っやべぇ、どうさせたかったんだ一体…
長くなったし、いちほいちほ。
青寒天の目の構造を考えてたら楽しくなって脱線しかけたのは内緒。