名前を呼んで


肖像画と某死体のお話。



「アンタが敬意を払う時」


「アンタが本気で俺を気にかけてくれた時」


「重々しげに開いた口から零れ落ちる音」


「        」


「嬉しい。 でもそれは俺の本当の名前じゃない」


「あの心地よい重低音で」


「最初は純粋に尊敬していた」


「その内嫌な事が目に付く様になった」


「地位を奪った今でも」


「―それでも、アンタは俺の憧れなんだから」


「頑張ったねと褒めてほしいのに」


「俺の名前は、―」


「 ま だ 、 決 ま っ て い な い 」



「思えば色んなものを捨ててきた」


「死ぬ時に名前も捨ててきてしまった」


「あの愛しい子猫も。 ―ああ、鴉も犠牲にしたのか」


「私を取り巻く全ての者達も。 そこに有った記憶さえも。」


「そうやって何もかも捨ててきた私を」


「ひっそりと影になった私を」


「救いあげたのは彼だった。」


「―彼は、私の事を嫌っているかもしれないが」


「    」


「…あのぶっきらぼうな言い方でも」


「彼になら教えてもいいと思うのに。」


「私の名は、―」


「 嗚 呼 、 ど う し て も 思 い 出 せ な い 」



 お互いに「手前、名前ぐらい教えろよ」とか思ってたら可愛いと思いませんか ^^